東日本大震災で大きく地盤沈下した石巻。浸水被害の絶えない地域の救世主は、国内屈指の規模の大型排水ポンプ。
2019年10月に日本列島を襲った台風19号は、関東、東北地方に記録的な大雨をもたらし、甚大な被害を引き起こしたことは記憶に新しい。この大雨の際、石巻では住宅の浸水被害が1万棟にも上り、東日本大震災の被災地である岩手、宮城、福島3県の中でもっとも被害件数が多かった。石巻にはこうした被害が一度や二度ではなく、台風のたびに浸水している地域もある。
東日本大震災の地殻変動で、石巻は全域で45から120㎝の地盤沈下が発生した。すでに雨水の自然流下が困難な状況になっていて、排水能力は極端に低い。石巻市では2013年度から雨水排水施設整備に取り組んでおり、そのうち石巻中央排水ポンプ場工事は最下流の北上川下流河口に位置し、中央幹線・ポンプ棟および設備一式を建設するものだ。清水建設をはじめ、大豊建設、遠藤興業による復興JVが組まれ、2018年9月からプロジェクトがスタートした。その工事に最初から携わり見守り続けるのが、監理技術者の石井洋一さんだ。清水建設に入社して23年、これまでも多くのコンクリート構造物を手がけてきたが、さすがに今回のような巨大ポンプ場の建設工事は初めてであった。長さ約90m、幅平均約36m、高さ39mのコンクリート建造物を、ニューマチックケーソン工法という特殊な工法で地下に沈めていく。2018年4月から現場にいたものの、実質的な工事となってきたのは、2018年9月あたりからだ。

完成すれば、石巻市内の中央排水区と呼ばれる地域の排水に貢献する施設だけに工事規模も大きく、ひと筋縄でいかないのも当初から織り込みずみだ。ニューマチックケーソン工法とは、コップを逆さまにして平らに水中に押し込むと、空気の圧力により水の浸入を防ぐことができるという、子供の頃に誰しもが遊んだあの原理。それを応用したものであるが、実際に巨大コンクリートでやるとなると、どのような試練が待つか、なかなか専門の技術者でないとわからない。土中では、10㎝単位でのかたむきが出てしまうことも日常茶飯事で、うまく調整しながら工事を進めていかねばならない。

ポンプ場の現場は、日和大橋を望む旧北上川河口にある。このあたりでは防潮堤の工事も行われていた。「防潮堤ができることで、余計に排水が困難になります。地盤沈下している土地に雨水が流入し、防潮堤に取り囲まれていたら水は逃げ場を失います。そこで強制的に排水するためのポンプが必要になります」。完成すれば、何十年も石巻へ流入する雨水、浸水被害から、市民を守る施設となる。大変な工事だが、それ以上に、早く完成させ、大雨が降るたびに市民が抱く不安を少しでも解消できたら、そんな思いが石井さんの気持ちを強く動かしている(2020年取材)。
